記念曲制作ものがたり
その36 打楽器を収録

主楽器とコーラスの収録は、順調とは言えないまでも予定通り終了した。
収録音源は、1トラックごとに立てたマイクの音が入っている状態で、業者のところに保存される。たぶん20トラック以上を使用しているのだろう。

それを、打楽器の収録用に、レベル未調整のままモノラルの状態で、とりあえずCDに焼いてもらった。
全くの無修正版なのだが、なかなか聴いていていいものだ。その時の雰囲気や響きが、そのまま頭の中で再現される。これまで聴いてきたMIDI演奏での音とは、全く別物のようにいい。といっても、いくつかある間違いが気になる。編集の段階で修正するしかない。

さて、打楽器の収録は、年が明けた1月11日に大阪で行うことになった。主楽器の収録を本部で行ったことから、これまで新曲の検討に携わってきた人たちにも収録に加わってもらいたいとの思いもあり、そのような人たちが楽に集まれる場である大阪とさせてもらった。また、こうした録音に詳しい大阪在住のK氏がいたことも大きい。
したがって、今回の収録はK氏の機材で行うことになったのである。

当日、大阪のO教会での収録である。K氏の機材は、ノートパソコン1台と小さなミキサー1台、そしてマイク1本だけである。
本部での、ものものしい機材やたくさん立てられたマイクを見ているだけに、このきわめてあっさりした光景は少々拍子抜けである。「ほんとうにこれでできるの?」との私の思いを感じているのかいないのか、彼はテキパキと準備をしている。彼にとって、今回のようなことは、今まで何回もやってきた当たり前のことなのだろう。事実K氏は、これまで何枚も音楽CDを制作していた。

いわゆるハードディスクレコーディングというヤツである。パソコンの進歩のおかげで、ソフトさえ整えば、なんでもできるのだ。彼は「Cubase(キューベース)」というプロも使用するようなソフトを使用して録音するのだそうだ。
前もってモノラル版の本部収録CDを送っておいたので、事前にパソコンにセットしてくれていた。マイクがつながり、収録準備OKである。

奏者は、一人ずつCDの音をヘッドホンで聴きながら演奏する。その音はパソコンのハードディスクに用意された別々のトラックに録音される。各打楽器が別のトラックに録音されるので、チョットした間違い等は、簡単に修正できるのだそうだ。

収録は、太鼓、鞨鼓、鉦鼓の三つである。楽譜に従って各奏者が演奏していくが、緊張のせいか、ミスが多い。
管楽器と箏は、従来の典楽の曲とは違うということもあり、洋楽にも慣れている若い人たちに収録をお願いした。今回の打楽器は、曲の検討をお願いしてきた審議委員会のメンバーを中心とした人たちであり現在の典楽会の中心をなす人たちでもある。したがって、年齢もかなり上がる(失礼)ため、洋楽の響きをまとった今回の曲には、慣れづらいのだろうか。

K氏はおかまいなしに、淡々と進行しているが、こちらはミスが気になって仕方がない。小声でそのことを聴くと、あとで簡単に修正できるので心配ないとのことであった。
そのような修正については経験がないだけに不安はあるが、ここはK氏に任せるしかない。
収録を一通りすませた後、ミスの箇所の確認を行う。
「あとは修正したものを送りますから」ごくごく軽くK氏は私に言った。
「ほんとにできるの?」
言いようのない不安を抱えたまま、大阪から帰ってきた。
あとは、ただただK氏が修正を加えた音源を待つだけである。