記念曲制作ものがたり
その35 収録をおこなう

12月19日、金光。典楽会では代表委員会が行われているが、日程調整するとこの日しかなかった。この日に行う収録は、コーラスと打楽器をのぞく典楽器での言わばメインとなる収録である。その後、日を改めて打楽器の収録を私が行い、それをミックスしてCDにするという計画であった。指揮者のS先生は、できれば打楽器も一緒に録った方がいいと言われていたが、時間的にも難しいのでこのような形になった。また、2回の収録を両方業者にお願いする経費的なゆとりもないので、一回は自前で行こうと言うことにした。

録音は昼から予定されている。しかし、10時には業者が来て録音準備に入るので、それまでには、収録会場の準備をしておかねばならない。が、昨日、大まかなところは終了していたので、とりたててバタバタすることはない。

10時、予定通り業者のスタッフが2名、機材と共に到着した。早速、設営を始める。
素人考えでは、立てるマイクは、コーラスの各パートに1本、典楽の各楽器に1本で、つごう7〜8本くらいではないかと思っていたが、なにやら10本以上立てている。

その他の機材も、用途の分からないものがいくつかある。他に、大人が3人くらい入れそうな大きな箱が、収録機材の後ろに置かれていた。「何に使うのだろう?」
予定通り、設営は午前中で終えることができた。

さて、午後からリハーサルが始まった。収録は14時からである。収録スタッフは、雅楽関連の録音は初めてだと言っていた。コーラスとのコラボになかなか興味深げであった。ただ、声と楽器のバランスを、首をひねりながら2人で話し合っていた。
 収録は、まずピアノとオルガンが入る洋楽ピッチの第2章から始めることにしていた。典楽器、特に龍笛が洋楽ピッチに上げて演奏するのがことのほかしんどいようで、先にこの曲をしてほしいと言った要望があったからである。

2章のリハーサルが始まりしばらくすると収録スタッフが、収録を遅らせてもらうよう要請してきた。ミキサーを今のデジタルミキサーから、アナログのものに変え、収録マイクを増やして、録音のクオリティを高めたいということであった。了解すると、件の大人が3人くらい入れそうな大きな箱が開けられ、中からこれまた大きなミキサーが収録機材の中央に据えられた。36チャンネルだそうだ。そして、マイクがまた何本も、一見「そんなところに要るの?」というような場所に立てられたのである。それとなく聞いてみると、パート毎の音の輪郭を出すには必要なのだそうだ。録音という技術も奥が深い。

収録が始まる。リハーサルの時から思っていたのだが、典楽に洋楽の指揮が入るのは初めてであり、少し奏者にもとまどいがあるようだ。特に箏は、譜面を追うのに精一杯といった状態で、指揮者のタクトにリズムを合わすと言った余裕はまったくないようだ。洋楽の指揮が受け持つ曲全体のリズムや強弱の抑揚をつけるというような役割は、あまり期待できない。典楽における指揮とはまったく違った役割であることがわかる。

コーラスの方は、何度でも(まあ限界はあるが)とり直しOKであろうが、典楽とりわけ篳篥はそうもいかない。長く吹いておくと、唇に力が入らなくなり、音程が不安定になってしまう。したがって、できるだけテイク数を少なくしていきたいと事前に相談していた。そのようにS先生は進行していただき、2章、1章、3章と、スムーズにとはいかないまでも、収録ができたのである。終了は6時前くらいであったろうか。最後の方は、やはり篳篥奏者はヘロヘロになっていた。お疲れ様である。

収録後、指揮者のS先生がみんなに言われた。「コーラスと典楽って、合いますねえ」
S先生は、典楽と洋楽のコラボについては、消極的なお考えであった。無理矢理?引き受けてもらったのだが、この最後の一言は、お世辞でもないようで、私にとっては、本当に嬉しい一言であった。

さて、次は、打楽器の収録に向かうことになる。