記念曲制作ものがたり
その34 収録前夜

楽譜の齟齬が土壇場になってでてきて、かなりあわてている。時間がない。本当にない。

作曲者から、2つ目(M氏記譜の分)で行きましょうとの回答があった。コーラスの方々に伝え、私も練習に加わる。
最終のコーラス練習は、12月17日の金曜日。コーラスの方々は雅楽器に慣れていないので、事前に両方合わせてのリハーサルをしておきたい。17日に行うことにした。

コーラスの響きも典楽の響きも両方経験している私には、あまり違和感はないのだが、初めての人はたぶん戸惑うのだろうなあ、くらいの気持ちで臨んだのであるが、少々甘かった。
練習を始めたとたん、圧倒的な篳篥の音量に一同驚いている。中には周りの声が聞こえないという人も出てきた。龍笛も篳篥の影で目立たないのだが、コーラスに比すればかなり大きい。周りで聞いている私にも、雅楽器の音ばかりが耳につく。コーラスとのバランスが異様に悪いのだ。

「補正が必要だ」すぐに思った。指揮者のS先生も「収録の時は、少し離しましょうか」と言われた。このホール内でどうやって録音するのか考えねばならない。以前に収録の段取りをS先生と相談した際に、「できれば、典楽とコーラスを別で録音できたら」というようなことを言われたことがある。私もそれは考えなくもなかったが、如何せん経費の問題もあり、「一発で行きましょう」ということになったのだ。
ここにきて後悔の念も起こったが、決めたことはしょうがない。現時点で一番いいあり方を考えねばならない。

次の日、会場の準備を行う。できるだけコーラスと典楽を離すために、四角のホールの対角線の両端に配置することにした。そして、典楽の収録席のコーラス側についたてを立てたのである。そして、両方が確認できる位置に指揮者に立ってもらうことにした。典楽、コーラスともにお互いは見えなくなるが、両方とも指揮者が見える。音も少しは柔らかくなってコーラス側に聞こえるような感じがする。配置はこれでいくことにした。

ひとつ大事なことを忘れていた。蛍光灯のハム音をどうするかだ。普段は気にならないのだが、録音の場合は、致命的に気になる。ホール内の蛍光灯照明は使えないので、外部からハロゲンランプを3台ほど入れて、天井に向けて照射することにした。少し暗いが楽譜が見えないほどではない。

これで準備は完了である。いよいよ明日収録が始まる。