記念曲制作ものがたり
その29 新曲、協議する

新曲の典楽譜が完成した後、M氏からいただいたMIDIを若干加工し、CDに録音したものと典楽譜、洋楽譜を添えて、典楽会の本部指導員及び役員に配布した。5月中頃のことである。
6月には、本部指導員の協議会が開催されるので、その折に協議してもらいたい。
MIDIだけに、実際の音や響きとは隔たりが大きいのであるが、まず雰囲気を知ってもらい、それぞれの楽器演奏上の観点から意見を出してもらうことが大きなねらいであった。

私のところから新曲が出て行くのは、これがはじめてである。どんな反応を示すのだろう。それも楽しみである。

さて、本部指導員協議会は、6月5、6日、1泊2日で開催された。その2日目の午後に新曲の協議の時間をとってもらった。実際に演奏をしてもらい、それをもとにMIDIの演奏も考慮しながら協議し合った。
結構練習をしてきた人が多い。またよく聴いて来てくれてもいた。それぞれに曲についての意見を持ってきていた。

一番意見が多かったのは、笙の奏法であった。前にも書いたように、通常の典楽奏法からはあり得ない合竹が付されている。洋楽の和声のアプローチからであろうが、実際に生音で演奏してみても、違和感が強い。合っていないように聞こえるのだ。
一方、試しに龍笛、篳篥の音に沿った合竹の手を演奏してみると、これが実にマッチしていていい。笙の合竹とは、洋楽で言う和声とは次元自体が違う音の重なりなのかも知れない。
とりあえず、作曲者にはこのことを報告しなければならない。こちらで合うと思われる合竹を付した楽譜も送らせてもらおう。

また、鉦鼓の奏法については、典楽での奏法ではなく雅楽の奏法で記譜されているので、これをどうするのかは、今後の課題である。

その他にもいろいろと課題となるところが出た。
そのようなことを取りまとめ、次のように作曲家のY氏にメールを送ったのである。

> Y  様

>その後、いかがでしょうか。
>こちらも、ばたばたしていまして、連絡もできずに失礼しておりました。

>さて、
>去る6月5、6日に典楽会の指導者を集めての協議会があり、第2日の
>午後に、このたびの新曲について協議する時間をとりました。

>事前に楽譜とMIDIによるサンプルCDを配布していたので、章ごとに意見
>というかたちで聴取しながら、数人による合奏をしていきました。
>その中で、出てきた意見についてまとめさせていただきました。

>まず、全体的なこととして、

>○笙の奏法について
>現在付けていただいている笙の合竹(和音奏)を、実際に演奏してみたとこ
>ろ、通常の雅楽的な和音進行とは異なっているために、違和感を覚えます。
>今回は、コーラス抜きでの演奏なので、そう感じたのかもしれません。

>笙の合竹による和音から一番強く響く音(ニュアンスわかりますでしょうか?
>例えば「乙」ならば「E」、「乞」ならば「A」)を篳篥、龍笛の音に応じて
>つけて演奏すると、がぜん典楽らしくなります。
>また、龍笛、篳篥も実際に吹く音程を事前に笙が示すことになるので、吹き
>やすくもなります。かなり定石的な笙の譜になりますが、雅楽器奏法の伝統の
>上に今回の営みを位置づけるとするならば、その方がいいのではという意見が
>協議会で出されました。

>ついては、上記の考えで笙の合竹名をふったものを送らせていただきますので
>少しくご検討いただき、考えをお寄せ頂きたいと思うのです。

>○鉦鼓の奏法について
> 装飾音譜付きの四分音符を(金金)と見なしましたが、洋楽譜のとおりでは合
>わせづらいという意見がでました。本来典楽には、(金金)のような雅楽の奏法
>はなく、太鼓がなった後に、2回叩くという奏法のみで、どうしても太鼓に依存
>しがちになっているようです
>今回は、太鼓と同時に八分音符2つ叩くということで行かせてもらいたいと思っ
>ていますがどうでしょうか。(新たな奏法として、今回を機にやってみようとの
>ことでした。)

>○息継ぎ(ブレス)について
>龍笛、篳篥の息継ぎは、原則として2小節毎に行い、曲の流れに応じて、若干延
>ばしたり早めたりしています。(全体で確認をとりました)
> これもお送りする楽譜に示しておきます。なお、8月頃に、最終的な確認作業
>を1日かけてやりたいと思っています。もしかするとその際に弱冠変更があるか
>もしれませんがご了承ください。

>○龍笛、篳篥の装飾音譜について
>龍笛、篳篥の装飾音譜については、最初から典楽譜に示すとかなり複雑になるた
>め、付けないようにしました。洋楽譜も配布するので、慣れたあと洋楽譜から各
>自が工夫して付けるということでどうでしょうか。
>実際の演奏では、付けない方がきれいな感じがしました。

>つづいて章ごとに

>○第1章について
>・歌詞の間違い2カ所のご指示をお願いします。
>  はなたれて→はなれて  だいどうを→おおみちを
>・5ページ篳篥3、4小節目 楽器にない音程がでてくるので、オクターブさげる
>ようにしています。

>○第2章について
>・2頁1小節目の休符以降から5小節目の休符まで、龍笛は和(ふくら)音(オク
>ターブ下げる)で演奏した方がいいかと思うのですが、どうでしょうか。
>・2頁4小節目の龍笛gisの音は龍笛の音孔にはないと思います。
> それで、今はBの音を当てていますが、どうでしょうか。

>○第3章について
>・2頁 下段3小節目の篳篥は、音程にないので、オクターブ上げるようにしていま
>す。
>・8頁 2小節目の篳篥 Eは音程にないので、オクターブ上げるようにしていま
>す。