記念曲制作ものがたり
その28  新曲、典楽譜を作る

ピアノ、オルガン伴奏譜要望の行き違いについては、後日作曲家のY氏から、構想を変えるべく準備をはじめていたのでたいへん安堵した、といった主旨のメールがきた。まさに、M氏の指摘通りであったのだ。

さて、典楽譜の作成を急がねばならない。とりあえずのスケジュールとしては、4月中に典楽譜と洋楽譜並びにMIDIデータを本部指導員に送付して、個々に検討をしてもらい、6月の本部指導員協議会時に時間を割いて協議をする予定を立てていた。
典楽譜への置き換えについては、アレンジ曲を前もってやっていたので、そう困ることはなかった。吉備楽の楽譜のように、中央に歌詞を書き、右側に篳篥、笙、太鼓の譜を、左側に龍笛、箏、鞨鼓、鉦鼓の譜を記入するようにした。

少しとまどったのは、典楽のこれまでの休符記号は、篳篥、龍笛のみに存在し、概して息継ぎのための休符であったのに対し、このたびの曲では、洋楽的な休符の概念を持ち込まねばならなくなったことである。
典楽は、唱歌を軸にして演奏される。唱歌における休符は、やはり息継ぎのためのものであり、それは1拍の中でやや曖昧に処理される。笙は基本的に息継ぎが不要であるため、休符記号も不要。箏も打楽器も休符という概念はなかった。
このたびの曲では、おそらく効果という観点から全楽器の休符が書かれている。そのために唱歌として、休符をする文字を取り入れなければならなくなったのである。いろいろと考えて「ン」の字を当てて処理するようにした。また、リフレイン記号も当然なかったので新たなものを考えた。

また、主に龍笛、篳篥のところで、その楽器の音域を超えて音符が記されているところが何カ所か見つかった。オクターブ下げてやればいいのだが、メロディの加減があるので、作曲者へ確認してもらうことになるだろう。
洋楽では、メロディを中心に考えるのだろう。それゆえに、音域をはみ出してしまう。一方、典楽では旋律よりもむしろその音の響き、そして次の音へ変化した時の響きの差異に価値を見出しているように感じられる。こうした考え方の違いが根底にあるように感じられた。

さて、第1章では、典楽が8拍子(はこ)が1単位で終始するのに対し、このたびの曲ではその半分で切れてしまう場合があるところがある、ということであった。リフレインのところである。そう意識しなくてもいいのかも知れないが、この場合、冒頭の笙の吹き方が歌詞の1番では吹くかた始まるのに対して、2番では吸うから始まるようになる。笙の奏者としては、違和感があるだろうが、吹けなくはないと思われる。

2章は、弱起の曲である。これもアレンジ曲「いざもろともに」の時にクリア済みであったため、混乱することはなかったし、3章も、別段問題はなかった。

その他、楽譜化に直接関わる問題ではないが、テンポの問題が挙げられる。これは、M氏も指摘していた。
典楽側としては、できるだけゆっくりとしたテンポの方が演奏しやすいし典楽らしく聞こえることは間違いない。しかし、あまりにゆっくりしすぎると、コーラスが歌えないということになる。これは作曲者に聞かないとだめだろう。また、2章のオルガンの音色を何に設定するかということも気になる。個人的にはストリングス系なのだが・・・。

こうして、なんやかんやと、MIDIデータをBGMにしながら、典楽譜への変換をしていったのである。