記念曲制作ものがたり
その19 音出しをする(2)

新曲へとステージアップした記念曲作成のプロジェクトは、一方でアレンジ曲の検討も合わせて行っていくこととなった。
8月31日、大阪で典楽審議委員会が開催され、その際に時間を設けてアレンジ曲の合わせを行うことにした。事前に、楽譜を送付し、それぞれの楽器奏者1名ずつに練習をお願いする。
時間の関係で「神人の栄光」しか検討ができないが、はじめて検討の場を持つという意味では大きなステップである。

場所は、大阪にあるO教会。打楽器類が整い、音出しができる部屋もある立派な教会である。
とりあえずは、審議委員会で検討すべき事項を処理した後の空き時間で検討することとなる。

さて、実際の演奏を聴いてみると、まず気になったのが音のアンバランスさである。笙、篳篥、龍笛1管ずつ+箏1面+打楽器でおこなったが、完全に篳篥ととりわけ打楽器に圧倒されている。箏などそれと意識しないと聴くことができないほどである。
現在、本部の大祭では、笙5管、篳篥4管、龍笛5管、箏9面に対して太鼓、鞨鼓、鉦鼓の打楽器が1つずつ加わっているが、この割合が典楽本来のバランスなのだろうと、妙に納得してしまった。
収録時には何とかバランスを調整することは可能だろうが、ライブでは相当きついなあ、とは正直な感想である。

次にこのテンポの曲での打楽器の打ち方の問題である。あまりにもせわしく感じる。特に鞨鼓はせわしい。
龍笛篳篥は、技術的にはそう問題はないが、ほぼ同音で進行していくのでなにか物足りないように感じる。
笙は、課題の3本吹きであったが、演奏可能の状態まで稽古していてくれていた。ただ笙本来の響きが伝わらず、単に音が3本鳴っているという感じに聞こえる。
最後に箏である。何と箏の奏者が典楽の爪では、この曲は弾けないと言い出した。テンポが速いので太い爪でないと箏の響きが出ないという。奏者自身が生田流の箏も習っていた人なので、今回は生田流の大きな爪をつけての演奏であった。聴いている我々にすれば、そう変わらないように感じるのだが・・・・。また確かにテンポは速いのだが、歴史舞の曲なんかこれよりもっと早いし、その曲を典楽の爪で弾いているのだが・・・・。まあ、これからの課題とさせてもらおう。

検討のあと、本をもらった。雅楽の本である。CD付で、その中には雅楽の曲とともに、ドボルザーク9番の2楽章やさくらさくら、仰げば尊しといった洋楽が雅楽器で演奏されていた。後日聴いてみたが、ドボルザーク9番の2楽章の笙は合竹での演奏である。これがなんとも気持ちがいい演奏である。今やっている3本吹きよりもよっぽど気持ちよく聴ける。うん、これも作曲者に送ってあげよう。

そして、音出しの結果報告を作曲者のY氏にメールしたのである。

>  Y 様

>去る8月31日、大阪において会合があり、その余時間で、このたびの編曲の
>中から「神人の栄光」の合わせを行いました。
>前もって、MIDIのデモテープと楽譜(典楽譜)を渡し、事前にすこし練習して
>もらいました。
>奏者はみな、典楽会内においては、各楽器の指導にあたるような立場の方です。
>練習経過をポータブルMDで録音しています。後日送りますので、聴いてみて
>ください。
>その際に出てきた問題点について整理してみますと。

><箏>
>まず、テンポがこれまでの典楽に比して倍くらい(体感)早くなっているので、慣
>れないと弾けない、とのことでした。これは、練習次第のようです。

>次に、典楽の箏爪が、その形状から早くて手の多い曲に対応しにくいようにできて
>いるようで、その面からも弾きにくいとのことでした。今回の箏奏者は、生田流の
>箏曲もされる方だったので、最初は生田流の箏爪で弾いておられました。典楽の箏
>爪にしてもらうと、しきりに弾きにくいと言われます。また音量の面でも、早い曲
>には向かないといっておられました。
>この点については、今回は生田流の箏を知っていた方なのでこのようなコメントが
>出たのであり、典楽しか知らない方にとっては「こんなもん」で済む問題でしょう。
>音量の点も、かなり意識して強く弾いたとのことですが、その限りにおいては、そ
>う違うようには感じられませんでした。

><笙>
>3本吹きに挑戦してもらいました。できるようにはなりましたが、相当練習したよ
>うです。何回もやって、押さえる指の進行を竹との関係で覚えていかねば、吹けな
>いと言っていました。初見では絶対に吹けないとも言っていました。

>実際にやってみて感じたことは、慣れていないことが一番の原因かもしれませんが
>ただ3つの音が鳴っているだけという印象です。
>ご承知のように、笙の和音奏法では、手替えと息替えが同時ではなくずれて入るた
>め、そこに息の強弱が加わり、静かな抑揚がつきます。それが、合奏の中での笙の
>一番の魅力であり、笙の笙たる響きではないかと思っています。3本吹きでは、ど
>うしても同時に手替え息替えとなるので、少し寂しい気がします。

>試しに、合竹の手をつけて演奏してみました。といいますのも、最近発刊された雅
>楽の入門書に、ドボルザーク9番の2楽章を雅楽器で演奏しており、笙は合竹で演
>奏されていたからです。
>やってみた感想は「なかなかいいじゃん」という感じです。録音もしていますので、
>聴いてみてください。
>もし合竹が可能なら、3本吹きという高度?な技術を笙の奏者に課さずに済みます。
>また、合竹を基本として、途中の1部に1本吹きや3本吹きがはいっても、大丈夫
>だと思います。
>とりあえずは、聴いていただき感想をお寄せください。

><篳篥・龍笛>
>技術的には、ほぼ問題なく演奏できるとのことでした。
>ただ、唱歌(典楽譜)の書き方に、それぞれの楽器の塩梅を表現してほしい旨の
>話がありました。これは、私の側の問題です。時間のあるときに少しずつ改訂を
>進めていきたいと思っています。

>また、篳篥、龍笛がほぼ全体にわたりユニゾンで進行していきますが、少し遊びが
>あってもいいかなと個人的には思いました。複雑なことはようしませんが、ブレス
>休符の位置をずらすとか、例えば篳篥が音を延ばしている時に、龍笛がその音にお
>かずをつけるとかするとおもしろいかな、などと思います。
>ただ、コーラスとの兼ね合いもあってのことだと思いますので、あくまでも個人的
>な意見として聞いておいてください。

><打楽器>
>けっこう、いい加減に叩いていたようですが、あのテンポでの鞨鼓の諸来はあまり
>にも早すぎ、せわしい感じがしました。鞨鼓を気持ちよく響かせようとするならば
>もっと遅いテンポがいいと思います。
>太鼓の強弱および叩く位置は問題ないようです。
>鉦鼓の詰めて叩く奏法(雅楽では「金金」楽譜では前に装飾音が付されている音で
>すね)は、典楽では、もっと間をとります。(おおよそ、8分音符の連続程度でし
>ょうか)でき得れば典楽における鉦鼓の奏法に修正したいと思いますがいかがでし
>ょうか。

>以上、気の付いた点についてのコメントです。「いざもろともに」の方もやってみ
>なくてはわからないので、今後このような機会をとらえてやっていく予定です。

>後日、送付する録音は、まだ全体の調和を考えて演奏しようと言うような意識がな
>くそれぞれがとにかく演奏するといったようなものですので、あまり期待しないで
>くださいね。音が合っているか程度の検証に使ってください。
>山下さんの意図と違うところがありましたら、ご連絡ください。たぶん、私の唱歌
>作成時のミスだと思います。

>また、先に触れました最新の雅楽入門書に収載の、ドボルザークの「遠き山に日は
>おちて」と「仰げば尊し」「さくらさくら」の3曲も、今後の参考になるかどうか
>はわかりませんが、とりあえずMDに入れておきました。楽譜も同封させていただ
>きます。

>以上、遅くなりましたが過日の報告でした。