記念曲制作ものがたり
その17 アレンジ曲受け入れ

さて、出来上がった典楽譜を自分で吹いてみると、結構不具合がでてきた。そのほとんどは私の五線譜からの変換ミスのようだ。また実際の演奏ではこうした方が楽譜が見やすい、というような改良点も出てきた。
やはり、楽譜は実際に演奏してみないと、その善し悪しはわからないようだ。微調整を繰り返しながら変更を重ねていく。
7月22日に典楽会の代表委員会が行われるので、折角の機会でもあり、ここまでの成果を報告するべく、楽譜の整備と共に、実際の演奏を聴いてもらいたいと考えた。
楽譜はともかく演奏は時間もないので、コンピュータによるMIDI演奏で行うこととして準備を進める。

幸いに、M氏からMIDIデータを頂いていたので、それをもとに加工をしながら、打楽器のパートを付け加える。打楽器といっても、MIDIの中に、典楽で使うような太鼓や鞨鼓、鉦鼓があるわけはない。太鼓は幸いにMIDIの中にも「太鼓」があったが、一般の和太鼓である。他にないのでこれにした。鉦鼓は「アタリ鐘」というのが一番近いようだ。鞨鼓などもちろんないのでドラムセットの中から高音のやつを使うことにした。なにやら、鼓(つづみ)のようにポンポンという音がして気に入らないが仕方がない。なんとか雰囲気だけは出るような気がする。(人によっては台無しになるとも言うが・・・・)
とりあえず完成である。

代表委員会当日は、できている楽譜のうち「神人の栄光」を配布し、「いざもろともに」のMIDIデータに私が打楽器を附けたものを参加者に聴いてもらった。
反応は概ねいいようだ。ただ、速度の問題が一様に挙がってきた。今回聴いた「いざもろともに」は、速度記号で言えば四分音符=72で設定していた。
確かに、通常の中正楽や吉備楽からすると、早く感じる。箏などは本当に忙しい。ただ、これよりも遅くすれば、今度はコーラスの方が歌えなくなるという問題が起こるようだ。
確かに実際に歌ってみると、これ以上遅いと歌としては面白くなくなる。

やはり、典楽と洋楽では、音楽としての本質において次元を異にしているのだろうか?
音楽である以上、演奏する側に「気持ちいい」という感じがないとだめだと思う。この速度の問題はこのことに深く関わっていると思われる。どちらかが妥協する、辛抱することによって成り立つ音楽ではだめなんだと思う。どちらも気持ちよく演奏ができる、そんな世界を共有することはできないのだろうか。

といいながらも、十分演奏は可能であるので、その後の役員会において検討した結果、とりあえずアレンジ曲2曲はこれで受け入れさせて頂こうということになった。そして今後、音出しを重ねながら出てきた課題を作曲者に報告し、調整していくこととし、いよいよ新曲へと踏み出してもらうようにお願いすることになったのである。

>Y様

 <前省略>

>典楽会役員にて相談いたしまして、この編曲2曲は、今回の楽譜でまず
>受けさせていただこうと言うことになりました。
>従いまして、Yさんには、次なる新曲作成に取りかかっていただきた
>いと思います。
>新曲の内容については、先般の企画書に書かせていただいたものをもと
>にして、金光にて打ち合わせをした内容をもって、お取り組みいただけ
>ればと思います。
>金光での打ち合わせの内容確認は、後便でお知らせさせていただきます。

>ただ、編曲2曲については今後、いろいろな場で合わせをしていく予定
>です。
>現在、楽譜とMIDIでの演奏テープを配り各楽器1名が練習をしており、
>8月31日に行われる会合の場で合わせてみる予定にしています。
>その中から、「ここはこうした方が吹きやすいのでは」といった奏法上
>の意見が出てくると予想されます。

>(現時点で課題になっているところは、例えば「いざもろともに」4頁
>2小節目の龍笛のDに装飾音符が付いていますが、これは雅楽譜に置き
>換えると「六の動き」になります。ところが「六の動き」は典楽の奏法
>上はないもので、「六」の音をなめらかに音程を上げていくことは、指
>の押さえからしてできないのではないかと思われます。雅楽にそのよう
>な奏法があるか調査中です。)

>そうしたものについては、こちらで一端整理し、Yさんに提案し判断
>を仰ぐという形で、進めていければと思いますが如何でしょうか。
>よろしければ、そのように進めていきたいと考えています。

>いずれにしても、Yさんが提示していただいたものから、典楽の世界
>が、より広がりを持ち、より豊かになっていくように思います。