記念曲制作ものがたり

その１６　典楽譜をつくる（２）

さて、このたびの再編曲では、笙や箏の奏法のみならず、多岐にわたって課題となる点が浮上し、また作曲者へその打開を要望していた。それを作曲者のＹ氏は真摯に受け止め、骨を折ってくれたようだ。
箏や笙の奏法に関わっては前回に書いたが、その他にも、曲の調性についてやアルトと男声の音域、難易度についての問題もある。これについては私の方では、荷が重い。よってＭ氏にお願いとなる。

Ｙ氏のメールに寄れば

①箏の調弦については、黄鐘調から平調に変え、第６絃「Cis」を「D」に上げて演奏する。
②箏の定石的な奏法の一覧表と、Ｍ氏採譜のパッセージをほぼ全域に渡って使用するとともに、早掻きなどだけでは限界があるため、音楽的にもつまらなくなると考え、採譜して下さった中の動きも多数入れるようにした。
③笙は合竹から不要な音をマイナスする、という考えに基づいて記譜した。なるべく動きを少なくして、できるだけ同じ合竹の中で音の変化をつけられるように考えた。
④コーラスを少しシンプルにした。（アルトの音域や、バスの難易度の問題はかなり改善されたつもりである）
⑤両曲とも前奏をつけた。
⑥両曲ともに打楽器と笙を記譜した。

そして、調性に関わっては、「神人の栄光」をハ長調（Cdur）での変更を要望していたのだが、箏の調性や音域の事など合わせて考慮した結果、かなり厳しいものがあると判断し、当初のニ長調（Ddur）のままとなった。具体的には、平調調弦の箏に主音である「C」がないこと、重要な第４音がFisである上に、これまた重要な第五音がないことなどが主な理由であったということである。

さて、このままでは典楽会の中では使えないので、前回のように典楽譜への翻訳？が必要になる。一回やっており、ひな形が作られていることもあって、少し気は楽である。
笙は、合竹を大きく記しその下に抜く竹名を付すようにした。龍笛、篳篥のパートも前回で慣れていたのだろうか、すぐに唱歌と仮名譜に変換できるようになっていた。従って作業は思ったよりもずっと早く進めることができた。
そして、なによりも箏の譜を作るのが楽しい。Ｙ氏の箏パートの五線譜は、某かの典楽の記号に変換できるのだ。「神人の栄光」「いざもろともに」ではあるが、その典楽譜は、我々の見慣れた記号で埋まっていく。前回とは打って変わって典楽譜への変換が楽しく、そして心なしか誇らしい思いも生まれてくる。

そして、完成した譜は、紛れもなく典楽譜なのであった。
次は、この楽譜を使っての音出しである。会内のコンセンサスをとっていく時期に入ってきた。