記念曲制作ものがたり
その15 編曲リターンズ

箏の定石パターンの五線譜化が完成し、N氏に確認のために送ったのが4月8日。12日にはN氏から間違いない旨の返信が帰ってきた。用意が整ったので、過日の作曲者との懇談の中身を取りまとめた文章(編曲の確認と新曲の構想<物語13参照>)を先ずメールで送信し、その後、別便で箏の定石一覧を送った。

一方、M氏は、Y氏に渡していた音源のうち、金典から「しもやたび」「深緑」「天地」、吉備舞曲から「神路山」「教祖大祭之曲」の箏パートが五線譜で採譜され、同じく作曲者に送付されていた。
これを私も頂いたが、なかなか大したものである。見事に箏のパートが五線譜化してある。こうなると、箏の譜でありながら、ピアノやその他の洋楽器でも演奏可能である。どなたかその旋律をピアノで弾いてもらいたいという思いがでてくる。それに歌をのせると、吉備楽として味わいは生まれるのだろうか、それとも洋楽の範疇に取り込まれてしまうのだろうか、興味はつきない。機会があればぜひ聴いてみたいと思う。

とりあえずこちらの宿題は終え、作曲者の手に渡った。あとは待つだけである。
予定としては、5月末をめどにしているが、少々前後してもかまわないだろう。ということで、しばらくの間は静かな日が続いた。
しかし、5月が過ぎ、6月の半ばを過ぎても連絡はない。そろそろ様子伺いでも、と思い始めた6月の終わりに、作曲者からのメールが届いた。完成の連絡である。

7月2日、再編曲の楽譜を受け取る。早速開けてみる。
要望通り、2曲とも箏と笛による前奏がついていた。最初の編曲での課題のひとつであったのは、どうやってテンポを示すのかということであった。洋楽であれば、指揮者がいて、その指揮に従うということでテンポが決められるが、典楽の場合は指揮者にそのような役割はなく、龍笛の音頭(ソロ)が、テンポを示す役割をになっている。
したがって、指揮者の役割を典楽に準じた場合、どうしても何らかの楽器による前奏が必要であった。(実際の演奏ではどうなるか、現時点では不明だが・・・)
前奏は、箏が主導していく形を取っているが、箏の場合、結果としてリズムを刻むことになるので、どうしても早めになってしまうことが、気になるといえば気になる。たぶん箏の奏者にとっては、プレッシャーになるのでは、と思ってしまう。

笙も、こちらの要望通り前回の3本吹きから、合竹を原則として、不要な音を指定してはずすという形で記譜されていた。やってみないことには分からないが、これならば奏者は違和感なく演奏できるのではないか、と思った。

そしてなによりも劇的に変貌したのは箏のパートである。典楽の定石奏法を入れてほしいとの要望をおこなっていたが、それが見事にちりばめられている。
典楽における箏の定石は、個人的にはそのパッセージ自体が典楽の香りを運んでくるものと思っており、その響きを聴くことにより、音楽がより典楽らしく聞こえることになる。とりわけ、吉備楽の定石において顕著であると思っている。
それらが、今回の曲にちりばめられると言うことは、まさにその曲が典楽の響きを身にまとうということになる。これは絶対いい。
箏の譜を見ながら、一刻も早く典楽譜に置き換えてみたいと思った。

全体的に、いいんではないかい。