記念曲制作ものがたり
その14 五線譜をつくる

今回の作曲者との懇談は、さまざまな事柄が見えてきて、ほんとうに実り多い場であった。そして、今後の課題もよりはっきりとしてきたという感がある。また、宿題もいただいた。
私が抱えることになった宿題は、一つには典楽の中で使用されている箏の定石的奏法を、五線譜にして作曲者に送るということであった。
「三八の早掻」や「二七の静掻」といった名称で呼び習わしている箏の奏法について、少しばかりの知識はあったが、その具体的な進行がどのようになるのかは、解説書頼みである。幸いに、平調調弦による各糸の音階を五線譜に並べた音階表が手元にあるので、それを参考にしながら並べていけばいいのだろう。作業的にはそう煩瑣なものではないが、リズムには注意しなければならない。

それにしても、典楽の定石奏法が五線譜に置き換えられるのは、はじめてのことではないのだろうか。そして五線譜に並べられるオタマジャクシを見ながら、少し複雑な思いがした。
我々の世代は、学校での音楽教育の成果であると思われるが、五線譜で書かれたオタマジャクシの列をみれば、正確な音の進行は取りようもないが、だいたいのリズムやニュアンスはつかみ取れるのである。典楽の早掻、静掻の記号ではそうはいかない。指導者に教えてもらわねば決して分からない世界なのである。音楽をやりとりする上で、五線譜がやはりスタンダードとしての共通語的な役割を果たす表記方法なのであろうか。
とすれば、典楽の世界にあるものは、すべて五線譜に置き換えることが可能でなければならない。箏のような単音で弾いたあとは減衰を待つ楽器ならばともかく、篳篥の塩梅をはじめ龍笛の微妙なメリカリなど五線譜では、どのように表記するのだろう。いろいろと興味は尽きないが、一つ言えることは、典楽の世界から一歩出ようとするならば、五線譜を避けては通れないということである。

そんなことを考えながら、定石が思いの外多いのにびっくりしつつも、定石的な奏法を五線譜にしていったのである。
そして、編曲の箏演奏を担当していただいたN氏に確認してもらうべく、メールで一覧を送付した。メールとは本当に便利なもんだ。画像も送れちゃうとは。

>N 様
>先日は、ありがとうございました。
>おかげで、ある程度のめどがついたようです。
>もう一度、アレンジし直して、再提出してもらう予定です。
>箏の定石を楽譜にしたものを画像で送ります。
>間違いがないかどうか、ご確認ください。
>MIDIファイルを楽譜でブラウズ出来るようなソフトは持ってないですよね。
>とすれば、MIDIファイルを送ってもあまり意味がないように思いましたので。
>ちょっと見にくいとは思いますが、勘弁してください。
>これは、ごく単純な定石のみを記しました。笙や唱歌の関係でも定石が決ま
>るようですが、あまり複雑なものはかえって混乱させると思い、省きました。
>Nさんのところで、これは入れておいた方がいいのでは、と思うものは
>足してください。
>次のアレンジでは、箏譜はこの定石を考慮して取り入れてもらう予定です。
>お忙しいとは思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

>おっと、そして、また次もよろしく。