記念曲制作ものがたり
その13 懇談をする

音出しが終わった後、Y氏、M氏と典楽会関係者数人とで宿舎のある倉敷に送りがてら、食事を共にした。私が個人的に好きな店に案内する。予約したのが遅くて、2階の静かな部屋がとれず、1階の騒がしいスペースでの食事となった。ここは、お酒の銘柄をたくさん用意している店である。Y氏もお酒が飲めるようだ。久保○の千寿、万寿などをすすめる。
けっこう陽気な方である。音出しのことから、新曲のこと、また音楽全般のことなどに話が及ぶ。反面、物事を冷静かつ客観的にとらえる視点をお持ちのようでもある。その後ろにある精神的な強さを感じた。さすが作曲家。ほんとうに楽しい時間であった。

さて翌日は、祭典に参拝していただく。M氏が同行してもらい、楽座の横に席を確保してもらった。
その後、本部総合庁舎4階の中会議室にて、典楽会の役員とY氏、M氏で懇談をおこなった。
まずは、今回音出しを行った編曲2曲の検討である。洋楽部はM氏から、典楽部は役員の方から意見が出され、Y氏と意見交換を行う。
細かいやりとりはおいて、結論をピックアップすると

「神人の栄光」
○調について、少し下げることが可能か検討してもらう。できればハ長調への変更。
○コーラスについて、アルトの音域を上げてもらう。バスは、もう少し易しくしてもらう。
○打楽器を加えてもらう。
○龍笛と篳篥については、特に問題はない。
○箏については、吉備楽の箏の定石的な奏法を取り入れてもらい全面改訂してもらう。
その際、典楽会から、箏の様々な旋律型を書き出した譜例集を作成し、作曲者に送付する。
○六の音は半音上げてDとするチューニングを用いる。
○笙を加える方向で検討してもらう。
○ピアノ譜については、このままでもよいが、もう少し音を加え、難易度を上げてもらってもよい。その際、ピアノと箏・笙は同時には使わないという前提でよい。
○テンポとタイミング取りのため、曲頭に龍笛と箏による序奏を入れてもらう。

「いざもろともに」
○調については、このままとする。
○笙は、既成の合竹から音を抜いた和音を用いる方向で書き直してもらう。スコアには、どの合竹から何を抜くかを表記してもらう。できるだけ本来の合竹を生かした使い方を考えてもらう。やむを得ない場合、1つか2つ程度、新しい合竹を作りスコアの最初に指定してもらってもよい。また、倍全音符ならびに全音符を基本とし、たまに2分音符を入れるような譜にしてもらう。笙の譜面については、スコアに先駆けて典楽会に送付し、演奏可能であるかを確認する。
○上記の笙の改訂に基づいて、コーラス部分を改訂してもらう。その際、必ずしも混声3部にこだわらなくてよい。部分的な同声2部などでもよい、ただし、コーラスにとっての面白みということから、完全な斉唱にはしない。
○箏については、「神人の栄光」と同じ。
○打楽器譜は、このままでよい。
○テンポとタイミング取りのため、曲頭に龍笛と箏による序奏を入れてもらう。

なお、この編曲の改訂は、5月いっぱいをめどとする。

ということとなった。
次に、新曲の検討である。といってもこちらの願いを聞いてもらい、理解してもらうと言った方が近い。事前に新曲の企画書をお渡ししているので、企画書に添って進める。
全く新しいものを制作していく、という緊張感とワクワクするような高揚感が何かしらある。実際、どんなものになっていくのだろうか。あとはY氏に、こちらの願いを料理してもらうということになるのだ。
ここも細かいやりとりはおいて、新曲に対して確認できたことを書いてみると、

○儀式時に使用することを想定して全体を構成し、それぞれ親しみやすい(技術的に難しくない)曲とする。
○単章での演奏も可能な曲とする。
○ピッチは2部を430Hz、1部を440Hzとする。
○使用する楽器は、笙、篳篥、龍笛、箏、オルガン、打楽器で、オプションとしてピアノも使用できるようにする。箏は平調の調弦を使用する。

○具体的な構成は、企画書のとおり3部構成で、それぞれ選定している歌詞をもって曲作りを行う。テキストは、み教えの言葉であり変更しないが、3章のみ教えは、現代語訳のテキストに変更する。「心は広く考えておれ。世界は広く考えておれ。世界はわが心にある。」
○全体あるいは一部のテキストの繰り返しは問題ない。
○第1章は、祭典時に斉唱する「神人の栄光」のような本教の愛唱歌として誰もがなじめ、口ずさめる曲とする。また、合唱への意欲を持たせるために2部ないし3部によるやさしいコーラスパートにする。
○第2章は、玉串奉奠時に使用することができる曲とする(繰り返しが可能)
○第3章は、開帳時に使用できる曲とする。コーラスパートは、第1章の愛唱歌的なものではなく、ある程度練習をしてもらえるようなものでありながら、一部に参加者が気軽に歌うことが可能な部分を持つ構成とする。
○章ごとにタイトルを典楽会において付与する。
○新曲の締め切りは、編曲ものが完成した後、改めて作曲者と相談する。

といったようなところである。

そして夕方、「いよいよ、動き出す」という不安と期待を抱えた我々の願いを、しっかりと受け止めて作曲家のY氏は、東京へと帰っていかれたのである。