記念曲制作ものがたり
その9 典楽譜をつくる

箏の調性については、とりあえずおいといて、先に進まなければならない。
まず、譜割りをどうするか?このような作業は、今までしたことがないだけに、考え込んでしまった。典楽には、1拍子(はこ)4拍子(ひょうし)か1拍子(はこ)8拍子(ひょうし)の2つのパターンしかない。とりあえず1拍子(はこ)8拍子(ひょうし)で構成してみようと、とりあえず作業を進める。四分音符を1拍子(ひょうし)として、2小節が1拍子(はこ)という案配だ。
音符の長さは、四分音符が典楽流に言えば1拍子(ひょうし)とすればいい。

思いの外篳篥の音域が狭いのが、五線譜からはよくわかる。実際の演奏では派手に響くので、もっと広いかと思っていた。それに比べて龍笛は「責(せめ)」と「和(ふくら)」があるので、単純には篳篥の2倍の音域を持っているのもわかる。五線譜とは、このような音の絡みが結構客観的に把握できるものであると、感心してしまった。

まず、仮名譜を書いてみる。初めての経験である。
洋楽譜は4/4拍子つまり1小節に四分音符が4つとなっている。2小節で四分音符8つとなり、四分音符=1拍子(拍子)ということになる。
仮名譜は、経験上、カタカナの母音と子音で構成されており、音の始まりや変化するときは必ず子音が付され、母音の場合は前の音を引き続きのばすということは理解していた。さらに「タ、ラ、チ、リ」といった子音は、比較的高めの音の場合に使用し、「ロ、ル、ト、ツ」といった子音は、比較的低めの音の場合に使用していることが解っている。もっともこれは原則であって、例外も山のようにあることも知っていた。
とりあえず、以上のような知識のもとに、恐る恐る書き進めていくことになった。

仮名譜を書き、その横に龍笛の音譜を置いてみるが、どうもしっくり来ない。中正楽や吉備楽の譜本を引っ張り出しては、同じようなパターンを探して仮名譜を確認する。最初はかなり面倒であったが、進めていくにしたがい、慣れてきたのだろう。少しずつ作業が早くなっていった。ただ、やっぱりしっくり来ない。こんなものなのだろうか。
例えば、龍笛の音譜「干(かん)」に対する仮名譜には「ラ」が振られていたり「タ」であったり「ル」であったりする。前後の音の並びにより変化するということは解っているが、それを解き明かす鍵が見つからないのだ。ある意味ではいい加減に書いているのかもとも思ったりしたが、何かあるかも知れないという思いも捨てがたく、いろいろな仮名に置き換えては試してみたりした。

元来、仮名譜は歌であると聞いたことがある。それで、実際に仮名譜を歌ってみたりしたが、今回のような洋楽の発想で作られているアレンジ曲を、雅楽の唱歌的な発想でアプローチしていいものかどうか、というような思いも一方にあった。それこそ試行錯誤の中で仮名譜を書き進めていったのである。