巻頭言
「思い」
                  金光教本部教庁典儀室長・本部在籍教師 古 川 真 人

 AKB48、いいですよねぇ。曲を聴くと元気になります。そんなAKBの中でも、渡辺麻友ちゃんが大好きな、私の娘の話。
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 先日、妻の実家の教会でご大祭が仕えられ、娘が吉備舞を奉納させていただいた。娘は小学校三年生。そんなに熱心に練習には通っていない。でも、舞うことが好きなようで、時々、練習なのかお遊びなのか、造花を持って一人で舞っていることもある。

 ご大祭の前夜、教会のお広前で稽古をさせていただいた。着付けや楽の練習も兼ねており、装束を着け、参向から退下まで、祭典の時と同じ。舞っている姿を見ると動作が速いらしく、途中じっとしている時間が長い。動きを忘れて突っ立っているように見えてしまう。

 なにより神様へのお供えなのだから、上手下手より気持ちが大切。小さい子どもが衣装を着て、そこに立っているだけでも、祭典に花を添える。でも、親としては大丈夫かなあと心配だ。本人は、心配なんてしていないようだが。

 そして祭典当日、彼女は恥ずかしそうに参向してきた。しかし舞っている時は、きりっとした表情をしている。プレッシャーで泣きそうな顔にも見える。動作は、前夜よりも目に見えて落ち着いており、突っ立っているようなところがほとんどない。上手かどうかと言われるとなんとも言えないが、気持ちは神様へ向いているようだ。舞が終わると、また、恥ずかしそうな顔に戻り、拍手を浴びながら下がっていった。

 ご大祭が麗しく仕えられたその日の夕方、私たち家族は、父の見舞いに行った。父は、ほとんど身体を動かすことができずにいる。入院後2か月ほど、身体には何本もコードや管が付けられていた。数日前にやっとそれらが外されて、身体を動かすリハビリが始まった。ところが、前日に体調を崩し、父はまた管にまみれてしまっていた。

 しかし、この日の父は表情がとても穏やかで、ほほえんでいるようにも見えた。看護師さんが、今日はよくおしゃべりしていますよ、と教えてくれた。もっとも、のどを切開しているので、声が出ないのだが。

 娘はひとりっ子で、兄弟姉妹がいない分、叔母である私の妹が姉代わりをしてくれている。そして、本当の姉妹のようにけんかをしていて、娘はとても機嫌が悪かった。父に会うのが照れくさくもあり、ひとり離れてぶつぶつ言っていたが、やがて大好きなAKBの曲を口ずさみながら父のそばにやってきた。ケータイに入れていたその曲を流してやると、合わせて一緒に歌っている。父の顔がますます穏やかになり、その歌声を目を閉じて聞いていた。病室に入ってきた看護師さんが、「あらまあAKB? おじいちゃん起き上がっちゃうかもね」と笑った。
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 吉備舞を舞う。AKB48の曲を歌う。そこに思いがあれば、それだけでいいのだ。