吉備楽コンサートin ロンドン
岡田典明(中近畿支部・伊勢教会)
ロンドンで行われた「立教百五十年記念 金光教ヨーロッパ大会」において、吉備舞が披露された。その様子は、金光新聞はじめ、国際センター発行の「Face toFaith」などで全国に紹介された。

 去る2月15日、ロンドン大学において、金光教国際センターとロンドン大学アジアアフリカ研究学院(SOAS)の共催による、吉備楽コンサートが開催され、出楽の依頼を受けた典楽会からは有志が参加しました。この行事については、すでに金光新聞3月28日付(922号)に掲載され、全体像についてはご承知のことと思いますが、この紙上では、典楽の立場から、今回のコンサートの内容、その意義、今後の展望などについて、報告を兼ねて紹介したいと思います。

「金光教には、祭典音楽と吉備舞がある。実際に演奏を観てみたい…。」SOAS 日本宗教研究センターの要請がきっかけで、今回のコンサートは実現しました。当初は、費用や日程の関係もあって、会組織としてはおことわりをしていたようですが、吉備舞を知っていただく絶好の機会だから、何とかお引き受けできないものかということで、結局、有志による参加となった次第です。
 参加メンバーは、笙(太田昭子)、篳篥(河野栄一)、龍笛(井出春中)、箏(櫻井君江・鶴見和子・山根修子)、舞人(越智晴江・伊藤穂乃香…桜狩 蜂谷裕子…箙之梅)、舞指導(金光健子・越智正子)、解説・指揮(岡田典明)の12名に加え、原真貴子、伊藤孝一の両氏が参加され、いろいろとお手伝いいただきました。

 今回の吉備舞コンサートは、立教150年記念、金光教ヨーロッパ大会に加えて企画されたもので、大会は前日の14日に大学近くのインペリアルホテルの一室で行われました。今回の特徴の第一は、なんといっても祭典に典楽が加わったことです。三管だけの奏楽でしたが、参拝されたイギリス在住の信奉者の方々は、生演奏のもと執り行われた祭典に非常に感激され、涙を流さんばかりに喜ばれました。

 普段楽を聞き慣れている日本からの参拝者は、そのお姿に接し、改めてご祭事における典楽の働きと重要性に気付かされたようなことでした。とりわけ、イギリス人の信奉者にとって典楽は初体験でしたから、その関心ぶりは我々の想像以上でした。楽器にも興味を持たれた様子なので、急きょ楽器の説明をする時間を取ってもらい、篳篥とオーボエの共通性や、笙とハーモニカの関係など、熱心に聴いてもらいました。演奏もさることながら、楽器そのものが日本の文化を伝える大切な材料であることを実感しました。楽器に興味を持つのは、当たり前と言えばその通りでありましょうが、扱いなれている我々としては、忘れている感覚を呼び覚まされるような一時でした。

 英語の祭詞と典楽の調べもまた不思議に調和するものです。むしろなんの違和感もなく厳粛なご祭事をお仕えできたものと思います。

 翌日行われた吉備舞コンサートは、SOAS のご協力により、ロンドン大学の階段教室を会場に使うことができ、日本の宗教、音楽、芸術、文化に関心を持つ学生や研究者、さらにはポスターを見て入場された一般市民、前日のヨーロッパ大会に参加された信奉者やその知人など多数来場され、日本文化、ひいては金光教の文化たる吉備舞への関心の深さを感じました。

 当日の出し物は「桜狩」と「箙之梅」でしたが、私には、国際センターから解説の依頼がありました。英訳して、当日配布用のパンフレットに用いたいとのことでしたので、この機会に、譜本の解説だけではなく、金光教と吉備楽及び中正楽の関係についても知ってもらいたいと思い、その旨国際センターに申し入れ、了解を頂きました。

 私がこだわったわけは、金光教と吉備楽にとって、今年は記念すべき年であったからです。それはどういうことかと申しますと、吉備楽が正式に金光教の祭典に用いられたのは、明治23(1890)年であって、ちょうど120年前のことであります。なんとその記念の年に、ロンドン公演が実現したわけです。ご神慮の賜物としか言いようがありませんね。

 「吉備楽は明治の初年に、岸本芳秀が雅楽をもとにして、舞と歌をそえて創始した全く新しい音楽であったこと。また尾原音人により、雅楽を発展させた「中正楽」が創出され、吉備楽とともに祭事に用いられているという事実。吉備楽と中正楽は、金光教独自の宗教音楽として確立しており、今日では、それはもはや一つの文化とみなしてよい」と、あらましこのようなことを英訳しやすい日本語でまとめ、先方に送らせてもらいました。
 
その後、センターから各楽器の説明文の依頼がありましたので、簡単な解説文を送りましたが、一番肝心な当日のプログラムがはっきりせず、準備に困りました。結局プログラムの企画もお願いしますということで、急きょ井出先生とも相談し、まとめ上げました。

持ち時間は2時間を超えるとのこと、正直どうしたものかと当初は面喰らいました。2曲とも長い曲とはいってもとても間が持ちません。あれこれ考えているうちに、はっと思いつきました。SOAS の研究者たちは、祭典音楽たる吉備楽、吉備舞を観たいと依頼してきている。桜狩と箙之梅は吉備舞に違いないが、余興楽、この場合はその中の歴史舞であって、純粋な式楽、すなわち祭典楽ではない、宗教音楽を期待しているのならばそれに応えねばならないのでは…。それには式楽としての吉備楽とともに、どうしても中正楽をプログラム入れたい。それを実現するには、模擬でもよいから祭典をやりたい。瞬時によぎったこの案は、先方にも了承され、山田信二所長祭主によるご祭事が、ロンドン大学の会場で実現したのでした。画期的な出来事であったと思います。

 箏や衣装の輸送も大変。笙を温める電熱器も電圧の問題があります。奏楽員の皆さんは、海外公演ならではのご苦労の中、堂々と厳粛に、そして華やかに演じられました。見事に金光教の文化を伝えるお役に立たれたと思います。

 海外布教において、典楽の果たす役割がいかに大きいものか、ロンドン大学の研究者との交流を通じて実感しました。その際英語が話せたら、いっそうお役に立てるのに…、との思いもありましたが、それ以上に大切なことは、外国人に伝える前に、自国の文化や伝統についてよく知ること、何よりもお道の信心をしっかりとしたものにしていなければならないと痛感しました。これからの課題でありましょう。