楽器の説明
(updated 05.08.18)


典楽に使用する楽器は、雅楽と共通のものです。
概ね、以下の10種類が使用されています。

(しょう) (ひちりき)
龍笛
(りゅうてき)
(かぐらぶえ)

(こと)
(わごん) (たいこ) (かっこ) (しょうこ) (しゃくびょうし)



    1 笙(しょう)

        笙の写真
        笙は、1個の頭(かしら)と17本の竹と帯からできています。頭は木製で、その上面に牛角製の円盤(これを鏡という)をはめ込み、各竹管を挿入するために17個の穴があけてあります。
         竹はいずれも同じ太さで作られ、長さはそれぞれ異なっていて、17本の竹が円形に差込んであります。その内、15本の竹の元には、銅と金の合金で作られた長方形の簧(リード)が付いています。
         この簧が振動して音を出るのですが、この振動する部分には、微小な鉛の粒と蝋を混ぜて作った衡(おもり)がのせられ、これによって音程が調整されているのです。
         管の裏には屏上と呼ばれる切り込みがあり、その屏上から根までの部分の管内の空気が、簧の振動に共鳴して音を発する仕組みになっています。管の根に近いところに小孔があり、この小孔を指で押さえると、吹いても吸っても音が出るのです。

         笙は、演奏の前後に火鉢等で頭の部分を温めて使用します。これは、弁に塗られている青石(しょうせき)に吸収された湿気を乾かすためにおこないます。これを怠ると、鳴りが悪くなったり、音程が狂ったりします。





    2 篳篥(ひちりき)

      篳篥写真
      篳篥は、長さ約18cmの竹の管(上部の直径約1.5cm、下部が約1cm)の表面に七孔、裏面に二孔ある楽器です。孔の部分を除いて樺で巻いた管に、芦舌(リード)を差し込んで吹きます。
      芦舌は俗に舌(した)と言っていますが、文字どおり芦の茎で作られたもので、押し潰して扁平にした部分に藤製の責(せめ、世目とも書く)をはめ、開き過ぎるのを防ぐようになっています。下部の丸い部分には、図紙という和紙が巻かれています。 
      篳篥は、小さい楽器ではありますが、音量が大きく、音程も自由に出せるので、合奏では主旋律を担当しています。
      また、幹音以外の音を装飾的に出す奏法が多用されますが、これを「塩梅(えんばい)」といいます。
      塩梅は、篳篥の奏法の中で、もっとも特色のあるものであり、曲の流れをよりなめらかに、音の変化を無理なく奏するための技法です。篳篥は、指使いを変えずに、唇や息の調節により、上下一音以上の音程を変化させることができるので、それを最大限に利用して、舌のくわえ方と息の強弱、また指使い等の組合わせと調節によって、旋律になめらかさ(洋楽でいうポルタメント)と、すり上げ風の効果を与えながら、必要なアクセントやリズムを適宜に与えていくものです。
      塩梅の旋律上の効果としては、
        1、メロディをなす主音間を装飾し、次にくる主音を強調し安定させる。
        2、次にくる主音を導きやすくし、期待させる。
      といったものでで。
      塩梅は、型にはまったものではなく、非常にたくさんの表現方法があるため、それぞれが自分の耳で、実際の音を聞いて練習することが大切です。また、強制するものではないので、まず音律、拍子が正確に演奏できてから後、意識したいものです。



    3 龍笛(りゅうてき)
       
      龍笛は、約40cmの竹製で、表面には樺を巻き、吹き口と7つの孔があけられています。篳篥に較べて音域がはるかに広く、その音域を生かして、篳篥の対旋律として装飾音を盛り込んだ、多彩にして派手な旋律を奏することができます。
       また、中正楽では、音頭として導入部の主役を担っている楽器です。 
      龍笛は、息の強さによってオクターブ転換が簡単に行えるので、龍笛の旋律にはこれがよく用いられます。この時の低い音を和(ふくら、乙音)、高い音を責(せめ、甲音)といいます。
       「和」と「責」は、唱歌において示されています。、龍笛の奏者は、楽器を持つ前に、唱歌をしっかり歌って、「和」と「責」を覚えなくてはなりません。


 



    4 神楽笛(かぐらぶえ)

      和笛、太笛とも呼ばれています。他の横笛が中国や朝鮮から伝来したのに対して、和琴とともに我が国で生まれた独自の笛です。
      龍笛に較べて、約5cm長くて音律が一音低く、太くやわらかい響きをもっています。指孔は、龍笛の7孔に対し、高麗笛と同じく6孔となっています。
      金光教の祭典では、開帳曲(神楽笛、和琴、篳篥、笏拍子での演奏曲)の他、祭主の玉串奉奠曲等に使用されています。




    5 箏(こと)

       箏の歴史は古く、二千年前、中国の秦で発明され、隋、唐の頃から十二絃、十三絃のものが生まれ、十三絃の箏が我が国に伝わり、今日に至っています。また、箏には楽箏、筑箏、俗箏の三種がありますが、典楽では俗箏を用いています。
       細長い桐の胴の上に絃を張り、柱で絃の調子を定める。絃は十三絃で、手前から一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、斗(と)、為(い)、巾(きん)と呼び、箏爪を右手の親指、食指、中指にはめて弾きます。 
      俗箏にも八橋流、生田流、山田流等の区別があり、箏爪の形状が違っているようです。典楽における箏爪は、吉備楽では象牙の爪を、中正楽では竹爪を使用しています。爪の長さは約1cm、先の幅は約7mmとなっています。
       なお、一般的に「こと」には「琴」の字を使用しますが、本来の「琴」は中国の五絃または七絃の絃楽器であり、琴柱を用いないものであるようです。典楽では、「こと」は「箏」の字をもってあてています。
      また、箏の調弦方法はいくつか知られていますが、典楽では平調での調弦のみを使用します。





6 和琴(わごん)

      神楽笛とともに、我が国で生まれた楽器です。
      楽器の長さは約1.93m、幅は頭部で約15cm、尾部で約24cm、槽の厚さは、約4.5cmである。昔は主として桧を用いていましたが、今は桐で作られています。
      絃は六本で、柱は楓の枝の股の部分を皮をつけたまま用い、その上部に絃をかける絃道という切り込みがついています。
       和琴を奏するために、水牛の角で作ったヘラを使用します。これを「琴軋(ことさき)」といいます。長さは7.6cm(二寸五分)、幅は先が1cm、元が1.5cmある薄い板となっています。
       典楽では、主に神楽笛とともに奏され、開帳曲、玉串曲等に使用されています。





7 太鼓(たいこ)

      太鼓は正しくは大鼓と書きます。近年能楽の囃子の一つに大鼓(おおつづみ、おおかわ)というものがあり、それと「たいこ」を区別するため、後世我が国で特に「太鼓」と書くようになったようです。
       典楽に使っているのは楽太鼓(吊太鼓)で、枠の中に直径60cm位(約一尺八寸あるところから尺八とも言っている)の両面鋲打ち太鼓を吊ったもので、打つ時は、太鼓を吊っている鈎の切れ目のある面を、木質の芯に皮で巻いた先の丸い桴で打ちます。桴は、右を雄桴、左を雌桴といいます。
       太鼓は、拍子の区切りを全楽器に示し、リズムを主導していく役割をもっている楽器です。





8 羯鼓(かっこ)

      鞨鼓とも書きます。胴は木製で、中央がややふくれていて、両端は皮面を黒皮紐で締めてあり(これは馬皮を細くして作り、大調(おおしらべ)という)両手で木の桴を持って打ちます。桴は小指で支えるように軽く持ち、両皮面を打ちます。桴は、右を雄桴、左を雌桴といいます。
       主に中正楽の合奏に用いられ、単調な旋律の流れにアクセントを加えるとともに、拍子の節度をコントロールする役目をもっている楽器です。






9 鉦鼓(しょうこ)

      鉦鼓は、太鼓、羯鼓のように、鼓面が皮でなく、皿型で青銅製となっています。(これを鍮石と呼ぶ)
       前面は隆起して、中央が平面になっており、その上部に鈎があって、これを枠に吊り下げ、両手で木の桴を持って打ちます。なお、鉦鼓を打つことを「摺る」といいます。
       羯鼓と同じく主に中正楽の合奏に用いられ、単調な旋律の流れにアクセントを加えるとともに、拍子の節度をコントロールする役目をもっている楽器です。





10 笏拍子(しゃくびょうし)

      笏を中央より二つに切断した形で、手に持ち打ち合わせて音を発する楽器です。
       長さは36.3cm(一尺二寸)、2つ並べ合わせて、その幅が上部は7.8cm(一寸六分)、厚さは1.1cm(三分五厘)、下部が8mm(二分五厘)位です。
       材質は、黄楊木をもって作りますが、桜や梅などを用いることもあります。
       主には、指揮者の奏楽開始、終了の合図に使用します。また、和琴、神楽笛を用いた開帳曲等にも使用される楽器です。